2日目(7月3日)
ソローは『メインの森』で「この山は固定されていない岩の巨大な集合体のようであった。まるで岩の雨が、あるとき空から降ってきて、山腹に落ち、横たわったかのように。どこもちゃんと安定しておらず、岩々がたがいにもたれあっている。」と書いているが,この山の様子を描く言葉として,これ以上に適切な表現はないだろう。まさにKatahadinという山は,大小様々な岩が固定されずに,ただ積み重ねられて出来ているようだった。
4時に起床し,部屋でサンドイッチを二つ作り,朝食とランチ用にする。4時30分にホテルを出る。5時45分にBaxter Peakを目指してスタート。
天候は曇り,時々雨,午後4時から本降り。
Mt. KatahdinはBaxter PeakとSouth PeakとPamola Peakの大きな3つのPeakを有するが,これ以外にも実際には幾つかのPeakがある。特にSouth PeakからPamola Peakを目指した場合,Chimney Peakを越えてPamola Peakに至るルートが最大の難所だった。また,Baxter State Parkは,設立者であるBaxterの「出来る限り野生のままで」という意向から,どんなに危険な箇所も,トレイル上に鎖場などはない。実際に岩がはがれかけていて,これに体重を掛けたら,谷底へ真っ逆さまだと思うような場所もあった。
実際に登った人から話を聞いたことがなかったので,わりと簡単な気持ちで登り始めたところ,Chimney PondからBaxter Peakに至るCathedral Trailは,ロッククライミングに近いルートだった。カメラや雨具など,日帰り登山の積もりで,35Lのリュックに「念のための物」など色々と詰め込んでいたので,荷物が重く,非常に苦労した。またBaxter PeakからPamola Peakまでの「Knife Edge」と呼ばれるトレイルは,文字通りの切り立った稜線渡りで,折からの強風にあおられ,しばしば危険を感じた。
Baxter Peakの頂上付近は,わりと広々していた。西側に伸びるHunt TrailにはThoreau Springと呼ばれる台地上のなだらかな地形が見られた。ソローが「もっと晴れた日にこ
の山頂を見た人らは、ここが約五マイルの長さで、一千エイカーの台地をなしているというのだが」と言っているのは,この部分だろう。
Baxter Peakへは幾つかのトレイルがあるが,ある程度山歩きの経験がある場合は,Chimney PondからCathedral Trailで登り,下りはSaddle Trailを経由してChimney Pondに降りる方がよい。Cathedral Trailを降りるのは,ザイルなしでは非常に難しいと思う。
Baxter PeakからKnife Edgeを経由してPamolaに向かう場合は,ロッククライミングの経験が必要だ。少なくとも,北アルプスの縦走程度の経験は必要だ。Chimney Peakを下り,最後にPamola Peakの頂上を目指す時,3級程度の岩壁を登ることになる。ここは天候が良くない場合,非常に危険だ。私は立っているのもやっとくらいの風になってきたので,どうしようかと迷っていると,南側にピークを回りこんでHelon Trailに向かうらしき踏み跡があったので,そちらに行ってみた。案の定,Helon Trailに出たので,比較的緩やかなHelon Tailを歩いて,改めてPamola Peakに登った。Pamola PeakではHelon Trailを登って来たパーティーがいて,運よく写真を撮ってもらうことが出来た。South Peakでは誰にも会うことがなかったので,記念写真は撮れなかった。またSouth Peakには道標もなかった。
Knife Edgeには,ここ以外にエスケープルートはない。途中で立ち往生した場合は,どうにもならない。私が登った日は日曜日で,Baxter Peakにはかなりの登山者がいたが,Knife Edgeにはほんの数人しか来ていなかった。皆,Knife Edgeは難しいということを知っていたのだろう。確かにガイドブックには「難しい」と書いてあるが,日本人の感覚だと,一般ルートで「難しい」と書いてあっても大したことがない場合がほとんどだが,アメリカでは「難しい」と書いてあれば,本当に「難しい」ということを思い知った感じだ。
ソローは「ここは広大で巨人的で,人間のごとき者は住むはずもない所である。それを眺める人は,登ってゆくにつれて,自分の肋骨の格子のすき間から,身体の一部が,それも最も重要な部分が脱け出してゆくように思われる。その登山者は想像し得る以上に孤独である。」と書いているが,Knife Edgeの上では,本当にこうした恐怖を感じる場所がある。
最後のHelon Trailの3.2マイル(5.1Km)は本当に長く,へとへとに疲れた。水を750mLの水筒と,予備に100mLのペットボトルしか持っていなかったため,飲みつくしてしまい実に辛かった。幸い曇りと雨だったため,大量の汗をかかずに済んだが,晴れた日だったら脱水になり危なかったかも知れない。このコースであれば,最低でも750mLを2本は用意した方が良い。また,余計な荷物は極力減らし,最軽量なアタックザックに水を十分に持ち,念のためにハンディの無線機を携帯した方がよいと思った。(無線機はトランシーバーでは役に立たない。アマチュア無線のハンディが必要。)
動物は,朝,車で移動中に道路でムースを1頭,林道で茶色のウサギ,鳥を数種見たが,図鑑がないので,種類は分からなかった。
5時45分 Roading Brook (Cathedral Trail)
8時00分 Chimney Pond
11時45分 Baxter Peak
1時00分 South Peak
2時00分 Pamola Peak
6時15分 (Helon Trail) Roading Brook
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Chimney Pondから見上げたKatahdin |
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岩場の取り付き
Baxter Peakは手前のピークよりずっと後 |
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Baxter Peak |
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Pamola Peakに続くKnife Edge |
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Baxter Peak西側の台地状の地形 |
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Pamola Peak |
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ソローが登ったと思われるSouth Peak南側の斜面 |