2011年7月6日水曜日

ソローが歩いた山(その5)

2日目(7月3日)

ソローは『メインの森』で「この山は固定されていない岩の巨大な集合体のようであった。まるで岩の雨が、あるとき空から降ってきて、山腹に落ち、横たわったかのように。どこもちゃんと安定しておらず、岩々がたがいにもたれあっている。」と書いているが,この山の様子を描く言葉として,これ以上に適切な表現はないだろう。まさにKatahadinという山は,大小様々な岩が固定されずに,ただ積み重ねられて出来ているようだった。

4時に起床し,部屋でサンドイッチを二つ作り,朝食とランチ用にする。4時30分にホテルを出る。5時45分にBaxter Peakを目指してスタート。

天候は曇り,時々雨,午後4時から本降り。

Mt. KatahdinはBaxter PeakとSouth PeakとPamola Peakの大きな3つのPeakを有するが,これ以外にも実際には幾つかのPeakがある。特にSouth PeakからPamola Peakを目指した場合,Chimney Peakを越えてPamola Peakに至るルートが最大の難所だった。また,Baxter State Parkは,設立者であるBaxterの「出来る限り野生のままで」という意向から,どんなに危険な箇所も,トレイル上に鎖場などはない。実際に岩がはがれかけていて,これに体重を掛けたら,谷底へ真っ逆さまだと思うような場所もあった。

実際に登った人から話を聞いたことがなかったので,わりと簡単な気持ちで登り始めたところ,Chimney PondからBaxter Peakに至るCathedral Trailは,ロッククライミングに近いルートだった。カメラや雨具など,日帰り登山の積もりで,35Lのリュックに「念のための物」など色々と詰め込んでいたので,荷物が重く,非常に苦労した。またBaxter PeakからPamola Peakまでの「Knife Edge」と呼ばれるトレイルは,文字通りの切り立った稜線渡りで,折からの強風にあおられ,しばしば危険を感じた。

Baxter Peakの頂上付近は,わりと広々していた。西側に伸びるHunt TrailにはThoreau Springと呼ばれる台地上のなだらかな地形が見られた。ソローが「もっと晴れた日にこ
の山頂を見た人らは、ここが約五マイルの長さで、一千エイカーの台地をなしているというのだが」と言っているのは,この部分だろう。

Baxter Peakへは幾つかのトレイルがあるが,ある程度山歩きの経験がある場合は,Chimney PondからCathedral Trailで登り,下りはSaddle Trailを経由してChimney Pondに降りる方がよい。Cathedral Trailを降りるのは,ザイルなしでは非常に難しいと思う。

Baxter PeakからKnife Edgeを経由してPamolaに向かう場合は,ロッククライミングの経験が必要だ。少なくとも,北アルプスの縦走程度の経験は必要だ。Chimney Peakを下り,最後にPamola Peakの頂上を目指す時,3級程度の岩壁を登ることになる。ここは天候が良くない場合,非常に危険だ。私は立っているのもやっとくらいの風になってきたので,どうしようかと迷っていると,南側にピークを回りこんでHelon Trailに向かうらしき踏み跡があったので,そちらに行ってみた。案の定,Helon Trailに出たので,比較的緩やかなHelon Tailを歩いて,改めてPamola Peakに登った。Pamola PeakではHelon Trailを登って来たパーティーがいて,運よく写真を撮ってもらうことが出来た。South Peakでは誰にも会うことがなかったので,記念写真は撮れなかった。またSouth Peakには道標もなかった。

Knife Edgeには,ここ以外にエスケープルートはない。途中で立ち往生した場合は,どうにもならない。私が登った日は日曜日で,Baxter Peakにはかなりの登山者がいたが,Knife Edgeにはほんの数人しか来ていなかった。皆,Knife Edgeは難しいということを知っていたのだろう。確かにガイドブックには「難しい」と書いてあるが,日本人の感覚だと,一般ルートで「難しい」と書いてあっても大したことがない場合がほとんどだが,アメリカでは「難しい」と書いてあれば,本当に「難しい」ということを思い知った感じだ。

ソローは「ここは広大で巨人的で,人間のごとき者は住むはずもない所である。それを眺める人は,登ってゆくにつれて,自分の肋骨の格子のすき間から,身体の一部が,それも最も重要な部分が脱け出してゆくように思われる。その登山者は想像し得る以上に孤独である。」と書いているが,Knife Edgeの上では,本当にこうした恐怖を感じる場所がある。

最後のHelon Trailの3.2マイル(5.1Km)は本当に長く,へとへとに疲れた。水を750mLの水筒と,予備に100mLのペットボトルしか持っていなかったため,飲みつくしてしまい実に辛かった。幸い曇りと雨だったため,大量の汗をかかずに済んだが,晴れた日だったら脱水になり危なかったかも知れない。このコースであれば,最低でも750mLを2本は用意した方が良い。また,余計な荷物は極力減らし,最軽量なアタックザックに水を十分に持ち,念のためにハンディの無線機を携帯した方がよいと思った。(無線機はトランシーバーでは役に立たない。アマチュア無線のハンディが必要。)

動物は,朝,車で移動中に道路でムースを1頭,林道で茶色のウサギ,鳥を数種見たが,図鑑がないので,種類は分からなかった。

 5時45分 Roading Brook (Cathedral Trail)
 8時00分 Chimney Pond
11時45分 Baxter Peak
 1時00分 South Peak
 2時00分 Pamola Peak
 6時15分 (Helon Trail) Roading Brook

Chimney Pondから見上げたKatahdin
岩場の取り付き
Baxter Peakは手前のピークよりずっと後
Baxter Peak
Pamola Peakに続くKnife Edge
Baxter Peak西側の台地状の地形
Pamola Peak
ソローが登ったと思われるSouth Peak南側の斜面