カーソンが心惹かれた「失われた森」はどこなのだろうか。
カーソンが晩年に暮らしたSouth Portの別荘近くにHendrick Head Trailという名の保護林があることは書いた。しかし,ここの風景は彼女の記述と合わないのである。この森は明るすぎるのである。確かに見事な苔や地衣類の繁茂した林床は存在するが,ここには何よりも入り江がない。
カーティス・リー・ボック夫人あてのカーソンの手紙には,次のようにある。
「私は「失われた森」に深く心惹かれています。険しい断崖が迫るごつごつした海岸線,そして,ところどころ深く切れこんだ入り江では荒波がすばらしい光景を生みだし,またとない造化の妙を見せてくれます。おだやかな満ち潮でさえ,そこここの入り江に抑し寄せては,海草やフジツボ,タマキビガイの水位標を残して去ります。海岸線が鋭角に曲がる場所には,思いがけなく,小さな浜があり,岩場が防波堤のように突きでていたりします。海岸の角度と湖の流れとが湾へ流れこんでくる流水をうまい具体に誘いこみ,丸大や木の幹や不思議な形をした根株が,おもしろく寄せ集まっている場所もあります。海岸線は一マイルほどでしょう。背後には深くて暗い,すばらしい森があり,そこに満ちているのはまさに大聖堂のごとき静寂と平穏。トウヒ,モミ,多少のベイツガとマツ,そしてかつて火災で傷つけられた外縁の部分には,自然の回復力が発揮さて,木質の堅い広葉樹が茂っています。森は苔と地衣類の自然の博物館で,そこかしこに数インチものぶあついカーペットを敷きつめています。岩があちこちに露出して蔭をつくり,その平たい表面には地衣類が生えています。森のなかはどこも暗く,静かですが,ところどころに自然の香りに満ちた日当たりのいい開けた場所があります。ここはまさに宝物のごとき場所であり,私の心はすっかり魅了されています。」
今私はBoothbay Regional Land Trustによって管理されているもう一つの自然保護林Porter Preserveにいる。ここの風景は,まさにカーソンの記述の通りなのだ。Linda Learなどのアメリカの研究者は,実際の「失われた森」がどこなのか知っていいるのだろうが,私はこのPorter Preserveが,その「失われた森」であると言ってもよいと思っている。それほどここの風景は,カーソンの記述のままなのである。(しかし実際には,Porter Preserveはカーソンの「失われた森」ではない。何故ならここは1983年までPorter家の私有地だったからだ。)
Sheepcod Reverに面した入り江の岩の上に腰を下ろし,マーケットで買ったサンドイッチを頬張りながら,私は今回の旅の最後のブログを書いている。何と,ミサゴが目の前でホバリングまで見せてくれるではないか。これ以上の贅沢はない。素晴らしいメインの旅であった。
Boothbayの朝 |
トウヒやモミの森 |
苔や地衣類が繁茂する林床 |
Sheepscod Riverを臨む入り江 |